栗のまちに、歴史とグルメと大絶景
ふらりと訪ねる、中山道の旅へ
2026 Sep.
Today’s LOCORECO trip!
岐阜県の東南端に位置する、山あいのまち・中津川市。木曽川が流れ、まちのあちこちから雄大な恵那山(えなさん)を望むことができます。栗きんとん発祥の地の味、天空の城の石垣、石畳の宿場町と、“中津川らしさ”が息づくまちを旅したのは俳優の大友 花恋さんです。
(文/兼子 雄治・写真/はるき としひろ)
※営業時間や価格は、すべて取材当時のものです。
岐阜県中津川市について
人口:71,766人
面積:676.45km²
(2026年8月末日現在)
豆知識:
中津川市は、地歌舞伎(じかぶき)が今も息づくまち。江戸時代から人々が自ら舞台に立ち、演じ継いできた伝統で、市内には明治期建造の「かしも明治座」をはじめ歴史ある芝居小屋が残り、保存会による公演が続いている。
岐阜県/ 中津川市NAKATSUGAWA CITY
岐阜県の東南端にある中津川市は、東を木曽山脈、南を三河高原に囲まれ、中央を木曽川が流れる自然豊かなまち。
古くから東山道・中山道・飛騨街道が交わる交通の要衝で、山から切り出した木材を川で運ぶ集散地でもあった。現在はリニア中央新幹線の駅と車両基地の建設も進み、東京や名古屋とつながる新しい玄関口になろうとしている。
このまちを語るうえで欠かせないのが、栗。木を低く仕立てて日光をたっぷり当てる栽培方法で、大きく甘い実を育ててきた。蒸した栗を砂糖だけで炊き上げる和菓子「栗きんとん」は、この地で生まれたとされ、栗そのものの味を引き出す繊細な味わいは、いまも秋の風物詩だ。
栗だけではない。石畳の坂が続く中山道の宿場・馬籠宿(まごめじゅく)、うだつ(隣家との境に上げた装飾的な防火壁)の上がるまち並みを残す中津川宿、自然の巨岩を活かした石垣が残る苗木城跡、そして良質なヒノキを育む深い森。歴史と自然が幾重にも重なり合う、山のふところのまちである。
INTRODUCTION
大友 花恋おおとも かれん
Profile
1999年10月9日生まれ、群馬県出身。
2012年に俳優デビュー。近年の主な出演作は、ドラマ「娘の命を奪ったヤツを殺すのは罪ですか?」(KTV・CX 系/2025年)、「あざとかわいいワタシが優勝」(TOKYO MX/2026年)、映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』(2022年)、『教場 Reunion/Requiem』(2026年)など。
現在放送中のドラマ「税金で買った本」(NHK)では、茉莉野美波を演じている。その他、バラエティ番組にも多数出演し、人気番組の「今日、好きになりました。」(ABEMA)では2022年からレギュラー見届け人を務めるなど、活躍の幅は多岐にわたる。
天空の山城へ
500年の絶景さんぽ
旅の始まりは、石畳の坂道が続く馬籠宿(まごめじゅく)。中山道(なかせんどう)43番目の宿場で、木曽路の南の玄関口です。大きな水車の脇に立った大友さん。「素敵な街、歴史を感じる石畳や建物、タイムスリップしたみたいですね」と、思わず声がこぼれます。文豪・島崎藤村(しまざきとうそん)を生んだこのまちから、中津川市の旅が幕を開けました。
街並みを眺めていると、この旅最初のロコレコさんが待っていました。「花恋さん、ようこそ中津川へ!」声をかけてくれたのは、安藤 嘉之(あんどう よしゆき)さんです。中津川市の複合施設「ひと・まちテラス」に勤め、まちの歴史や中山道の魅力を、講演や小学校の授業で子どもたちにも伝えている“案内の名手”。中津川市に暮らして50年、「中津川市のことが大・大・大好き」という生粋のまち好きです。「大好きな中津川市の中でも、ここが一番好きだという景色があるんですよ。ぜひ行ってみませんか?」と安藤さんに誘われ馬籠宿をあとにしました。
やってきたのは苗木城跡(なえぎじょうあと)。標高432mの岩山にそびえる山城で、「ここは戦国時代から多くの期間、遠山(とおやま)氏が治めてきた城で、今年でちょうど築城500年なんですよ」と安藤さん。「実は、平成の初めごろまでは木々に埋もれて、ただの山のようだったんです。それが少しずつ整備されて、今の姿になりました」と続けます。「500年も前から、ここに人がいたんですね」と遠い昔に思いを馳せる大友さん。まずは城跡の入口から、自然と人の手が織りなす石垣の世界へ、ゆっくり登っていきます。
近づくと、切り立った岩肌に石垣がぴたりと組み込まれた、独特の姿が現れます。「自然の岩をそのまま土台にして、その上に石垣を築いているんです。こういう造りは、全国的にも珍しいんですよ」と安藤さん。「人間が作ったものと、自然が生んだものが共存しているんですね。自然を尊敬している感じが、すごく伝わってくる気がします」と大友さん。巨岩の形にひとつひとつ石を合わせて積み上げた手わざに、思わず見入ります。
朝もやや雲海が現れると、山頂の城跡が空に浮かんで見えることから、苗木城は「天空の山城」「岐阜のマチュピチュ」とも呼ばれています。石垣は複数の積み方があり、それぞれの積み方を見ると築いた年代がわかるのだそう。ゴツゴツと自然のままに近い「野面積み(のづらづみ)」から、隙間なく整えた「切込接ぎ(きりこみはぎ)」まで、同じ石垣のなかに時代が層になって残っています。実は大友さん、事前に積み方を予習してきていました。「あれが野面積みかな」とつぶやくと、安藤さんも思わず笑顔に。
天守跡の展望台に立つと、視界がぐるりと360度に開けます。木曽川、市街地、そして正面には、日本百名山にも数えられ、中津川市の人々が“心の山”と慕う恵那山。眼下では大きな橋の工事が進行中で、「あれ、実はリニア中央新幹線の工事なんですよ」と安藤さん。近くの坂本地区には、駅と車両基地ができる予定だそう。500年の石垣と、未来の新幹線を一度に見渡せる景色に「過去も未来も、体験できる場所なんですね」と、大友さんの目が輝きます。
「初めて中津川市にお邪魔しているのに、そんな私にすら“お帰り”“よく来たね”と言ってくれたような、包容力を感じます」と正面の恵那山にふるさとの山を重ねた様子の大友さん。「外から見ても、中に登って外を見ても、他にはない唯一の景色を味わえました」石垣をたどり、天守跡まで登って眺めた、500年の時がつくりあげた絶景。安藤さんと歩いた“天空のさんぽ”を、心ゆくまで楽しんだ時間でした。
苗木城跡
なえぎじょうあと
標高432mの岩山に、自然の巨岩をそのまま取り込んで築かれた山城跡。漆喰を用いない外壁の様子から「赤壁城(あかかべじょう)」とも呼ばれ、その名のとおり赤みを帯びた城壁が周囲の岩肌と一体になった、ほかにない姿を見せていた。寒暖差のある秋から冬の早朝には、タイミングが良ければ、木曽川の川霧に石垣が浮かぶ”天空の山城”が現れることも。今年は築城500年にあたり、2026年10月4日には「苗木城築城500年記念イベント」も開かれる。
馬籠宿
まごめじゅく
安藤 嘉之さん
Profile
中津川市の歴史や中山道に詳しい、まちの語り部。複合施設「ひと・まちテラス」を拠点に、講演や学校の授業を通じて、地域の魅力を次の世代へ手渡している。
MOVIE
天空の城へ散歩
発祥の地で味わう
本場の栗きんとん
続いてやって来たのは、青々とした栗畑。イガがたわわに実る木の間から現れたのは、市川製茶(いちかわせいちゃ)6代目の市川 尚樹(いちかわ なおき)さんです。「中津川市は、岐阜県でも有数の栗の産地なんですよ。ここだけで、栗の木が1,000本ほどあります」と市川さん。お茶づくりのかたわら栗を育て、さらに江戸時代から続く地歌舞伎(じかぶき)の担い手でもあるという、多彩な横顔の持ち主です。「栗の畑を見るのは初めてです。ひとつひとつがポコポコ大きくて可愛い、私、栗が大好きなんです」と大友さん。
すると市川さんが差し出してくれたのは、まだイガが緑色の栗。「緑のうちは未熟だと思ってました」と驚く大友さんに「中身はもう、茶色く熟しているんですよ。太陽をたっぷり浴びせて育てるから、大きくて甘くなるんです」と市川さん。蒸したての一粒をいただきます。「ホクホクだと思ってたけど、それよりしっとり。栗本来の旨みが美味しいです。ふわーっと、全身を栗が巡っていく感じ」と、熱がこもります。
蒸したての栗を味わったあと、「せっかく栗の産地に来たなら、中津川市ならではの栗の名物も食べてほしい」と市川さん。連れてきてくれたのは、宿場の面影が残る中津川宿(なかつがわじゅく)です。中山道の43番目が馬籠なら、ここは45番目の宿場。格子戸の町家や商家が軒を連ねる通りには、街道を直角に曲げた枡形(ますがた・宿場を守るためのかぎの手の道)も残ります。そんな雰囲気を楽しみながら市川さんおすすめのお店へと進みます。
「やっぱり中津川市が発祥と言われている栗きんとんを味わっていただきたい」と市川さんに案内されたのは、創業1864年(元治元年)の老舗「川上屋(かわかみや)本店」。右から読む看板が、160年を超える歴史を物語ります。中山道の枡形にほど近いこの場所で、川上屋は代々、栗の菓子をつくり続けてきました。
店内で迎えてくれたのは、川上屋の中瀬 好恵(なかせ よしえ)さん。ショーケースをのぞいた大友さん、「あれ、私が知ってる栗きんとんじゃないです」と目を丸くします。おせちでおなじみの、黄色くて甘い栗きんとん(金団)とは別物。中津川市のそれは、蒸した栗を砂糖だけで炊き、栗の形を模して仕上げた和菓子です。
「ちょうど今の時期から、今年の栗きんとん作りが始まるんです」と市川さん。実はこの日は、今秋はじめての栗きんとんが川上屋に並ぶ日。「1年でいちばん、みんなが待っている日なんですよ」と中瀬さんが説明してくれます。栗きんとんは、機械ではなく職人がひとつずつ、布巾で茶巾(ちゃきん・上部をきゅっとひねって形を整える技法 )に絞って仕上げます。秋のはじまりを告げる、手仕事の季節です。
できたての一粒をいただきます。しっとりなめらかな舌ざわりのなかに、栗のつぶつぶした食感がほろりと残ります。「栗の風味そのままです!こんなに美味しいなんて感動です。みんなに食べてほしい!」と大友さん。栗と砂糖だけとは思えない濃厚さに「今度、誰かにお土産を渡すときはこれにします!」と大絶賛でした。
川上屋の栗きんとんは、毎年秋から年末頃までの期間限定。ふるさと納税の返礼品としても人気だと聞いて「いいこと聞いた。ちょうど今年どうしようか悩む時期ですもんね」と嬉しそうな大友さん。栗と砂糖だけが出会って生まれる、この土地にしかない一粒を堪能したのでした。
ふるさと納税返礼品としても人気が高い栗きんとんは、ご家庭でも味わうことができます。
詳細は「ふるラボ」より。
川上屋 本店
かわかみや ほんてん
栗きんとん発祥の地とされる中津川市には、まちなかのあちこちに約20店舗の伝統の味を守る老舗や名店があり、店ごとに少しずつ異なる味わいが楽しめる。川上屋 本店は、1864年(元治元年)創業の老舗のひとつ。看板商品の栗きんとんは、蒸した栗と砂糖だけを、職人がひとつずつ茶巾で絞る手仕事の逸品だ。旬の栗の季節にだけつくられ、その始まりを心待ちにする常連も多い。夏にはかき氷「栗みぞれ」も味わえる。
茶亭市川
ちゃていいちかわ
市川製茶が営む、大正時代に養蚕部屋として建てられた古民家。市川家の自宅を兼ね、いまはお茶の販売と”学びの場”として使われている。日本茶インストラクターでもある店主が開くお茶講座のほか、茶葉の手もみ体験、栗きんとん講座、金継ぎ教室などが土間で催され、学びと愉しみの空間になっている。中山道沿いという立地から多くの旅人も立ち寄り、お茶や栗、干し柿、和菓子、地歌舞伎といった中津川市の文化にふれていく。店先には季節のお茶や菓子なども並ぶ、旅の途中にふらりと立ち寄りたい。
市川 尚樹さん
Profile
中山道・中津川宿で代々続く市川製茶を営む生産者。お茶に栗、干し柿と、季節の恵みを手がけている。
MOVIE
栗きんとん発祥の地へ
木のカフェの
ご褒美モンブラン
川上屋を出ると、笑顔の女性が待っていました。この旅3人目のロコレコさん、星谷 奈美(ほしや なみ)さんです。岐阜市の出身で、2年ほど前に中津川市へ移り住み、「ito+(イトプラス)」名義で木のアクセサリーなどを手がける木工作家。「ここに来るまで栗はそんなに得意じゃなかったんですけど、中津川市の栗で“こんなに美味しいのか”って気づいたんです」と笑います。
「和菓子の次は、栗の“洋菓子”を一緒に食べに行きませんか?」と星谷さんが連れてきてくれたのは、木を基調にした一軒のカフェ&ショップ「meet tree HITO to KI(ミートトゥリー ヒトトキ)」です。「わぁ、可愛いお店。それに、すごく新しい感じがしますね」と、外観を見上げる大友さん。木のぬくもりと洗練された佇まいが溶け合う外観に、栗のスイーツへの期待がふくらみます。
「実はこのお店、中津川市で100年以上続く木材会社が手がけているんです」と星谷さん。「木が印象的なお店という感覚は間違いじゃなかったんですね」と大友さんも応えます。2024年にオープンしたばかりで、店名の“ヒトトキ”には、「人」と「木」、そして漢字にすると“休”むという意味が。テーブルや食器にもヒノキが使われ、一歩入れば「ヒノキの香りに包まれて心地よいです」と大友さん。木曽ヒノキ(きそひのき)を育む、木のまちならではのお店です。
まず登場したのは、「栗のテリーヌ」。テリーヌとは、型に材料を詰めて固めた、フランス生まれの料理・菓子のこと。小麦粉を使わないグルテンフリーで、つなぎに頼らないぶん、断面には栗がぎっしり。栗をふんだんに使った贅沢な一品です。「本当だ、これはテリーヌだ。栗の実とそれ以外の部分、それぞれの輪郭が、しっかり強調し合ってる」と、うっとりの大友さんでした。
続いては、看板商品のひとつ「meet tree 中津川プレミアムモンブラン」(秋冬限定)。円筒状のヒノキの器に、ふわふわの栗粉(くりこ)が雪のように盛られています。使う栗粉は、なんと栗きんとんにすると3〜4個分。その下には、砕いたカステラ、自家製カスタード、生クリームがひそんでいます。仕上げは、意外にも抹茶塩です。かわいらしい見た目に興味津々な様子の大友さん。
星谷さんに促され、大友さんが木の枠をそっと真上へ——ふわり。「雪だ、粉だ、夢のような粉だ!」と大友さん。栗の雪山が現れました。ひとくち食べて、「ふわふわの栗粉が口に入った瞬間に溶けて、最後に抹茶塩がお茶の香りを残していく。なんて最新スイーツ!こんな幸せなモンブラン、あったんだ」と興奮気味です。
「栗の表現を、こんなにできるってすごいです!」と笑顔の大友さん。蒸したての栗にはじまり、栗きんとん、栗のテリーヌ、そしてモンブラン。同じ栗が、和菓子にも洋菓子にも、まるで違う表情を見せてくれました。ひとつの素材をどこまでも楽しむ。そんな中津川市の栗の奥深さを、心ゆくまで味わったひとときでした。
meet tree HITO to KI
ミートトゥリー ヒトトキ
星谷 奈美さん
Profile
木を素材にものづくりを続ける作家。中津川市の自然と優しい人柄にひかれて暮らす。食いしん坊で好奇心旺盛、雨あがりに雲が山へのぼる景色が大好きだという。
MOVIE
木のカフェで頂く洋菓子
石畳の馬籠宿を
ぶらりと歩く
旅の最後にやってきたのは、ふたたび馬籠宿。石畳の坂道の両側に、土産店や茶屋、古民家が軒を連ねる宿場町です。坂道を眺めていると、「花恋さん、こんにちは!」と明るい声。この旅4人目のロコレコさん、吉田 由実(よしだ ゆみ)さんです。吉田さんがレコしてくれるのは、「ぜひ案内させてください」という、生まれ育ったこの宿場町そのもの。
「子どもの頃は、この坂を自転車で駆け上がっていたんです」と笑う吉田さん。石畳の坂を一緒に、のんびり上りながら、馬籠宿の見どころを案内してもらいます。まず立ち寄ったのは、土産店「花屋(はなや)」。竹笠や民芸品、地元の品が並ぶ、昔ながらの名店です。
店番をするのは、吉田さんの後輩のお母さんで、店主の原 恭子(はら きょうこ)さん。看板犬のくるみちゃんも出迎えてくれます。おすすめ商品は農作業や外仕事のときにかぶる竹笠(たけがさ)。「観光に来た皆さんがかぶって、この道を歩いていかれるんですよ」と吉田さん。くるみちゃんサイズの小さな笠まであり、店先はいつも笑顔でいっぱい。「家族みたいに迎えてくれる温かい場所ですね」と、大友さんも顔をほころばせます。
続いて吉田さんが連れて行ってくれたのは、五平餅(ごへいもち)のお店「かなめや」。「中津川市は、五平餅も有名なんですよ」と吉田さん。半つきにしたご飯を串に刺して焼く、この地方の昔ながらの郷土食です。名前の由来は諸説あり、神前に供える祭具「御幣(ごへい)」に似ているからとも、“五平(五兵衛)”という人物にちなむともいわれます。「かなめや」のタレは、醤油と味噌をベースに、ごま・くるみ・ピーナッツを合わせた甘辛く濃厚な味わい。香ばしい匂いが、食欲をそそります。
中津川市の五平餅は、平たいわらじ形ではなく、串に小さなお団子を3つ並べた“団子形”が定番。歩きながらでも食べやすいように、と生まれた形なのだそう。ひと口ほおばると、「焼きたてでもちもち。お米のつぶつぶ感と、甘辛いタレが合う…新しいけど懐かしい。私の地元・群馬と、この中津川市がつながった感じ、すごく嬉しいです」と大友さん。群馬の焼きまんじゅうを思い出したのだそう。なお、「かなめや」ではわらじ形の五平餅を販売。(団子形は事前予約制)
坂の中腹でひと休み。振り返ると、これまでのぼってきた石畳の道と、その先の市街や山並みが一望できました。「のぼってきた道も、奥の緑もまち並みも、全部が一枚の絵みたいに綺麗に収まってる景色ですね」と大友さん。坂道を汗ばんでのぼったご褒美のような眺めでした。
そして立ち寄ったのは、「四方木屋(よもぎや)」。島崎藤村が息子のために1925年(大正14年)農家を移築したという建物を改装した古民家カフェです。「実は、私もここで働いているんです。藤村先生が大好きで」と吉田さん。「馬籠と島崎藤村のことなら、いくらでもうんちくが出てくる」という筋金入り。案内人みずからおすすめする、とっておきの一軒です。
一歩入ると、古民家ならではの落ち着いた空気に包まれます。「すごく歴史を感じる建物ですね。どこかすっと心が落ち着きます」と大友さん。もとは住まいだった場所を改装したカフェで、迎えてくれたのは、なんと藤村のひ孫にあたるオーナーの島﨑 恵(しまざき けい)さん。太い柱や梁、庭のたたずまいに、文豪が生きた時代の気配がそのまま息づいています。
名物の「わらび餅」は、お店の方が毎朝ていねいに手ごねする自慢の一品。「ひとつでも幸せが広がる。すごく食べ応えがあります。思いがこもっているからこその弾力なんですね」と大友さん。添えられた「初恋りんごジュース」は、藤村の詩『初恋』にちなんだ一杯。地元のりんごを搾ったジュースで、「りんごってこんなに甘いのかって感動する。蜜の香りがすごくします」と、うっとり。
ゆったりと過ごした四方木屋の隣に建つのは、「藤村記念館」。「藤村先生が実際に暮らしていたお家なんです」と吉田さん。無類の本好きだった藤村が集めた蔵書や、詩『初恋』を刻んだ詩碑が並ぶ館内。さきほど味わった「初恋りんごジュース」も、その名は藤村が『初恋』に詠んだりんごにちなんだもので、モチーフになったりんごの木にもここで出会えます。藤村の世界がぎゅっと詰まった場所。「とっても見ごたえがありますよ」と、吉田さんおすすめです。
全長約600mの石畳を歩き切った先の展望台に立つと、正面にふたたび恵那山。「圧倒的な景色ですね!これは宝物だ」と大友さん。案内してもらった馬籠宿を、そっとふり返ります。「こんなに良い景色だから、藤村先生の心も動いたんですね」と吉田さん。生まれ育った宿場の魅力を、余さず見せてくれました。文豪を育てた馬籠の風景が、旅を静かに締めくくりました。
花屋
はなや
かなめや
かなめや
四方木屋
よもぎや
藤村記念館
とうそんきねんかん
1952年、日本で最初の文学館として開かれた由緒ある施設。入口の冠木門(かぶきもん)や記念堂は、建築家・谷口吉郎の設計によるもの。館内には藤村の直筆原稿や愛用品が並ぶ。火災を免れて残る祖父母の隠居所は、江戸期の建物として日本遺産にも数えられる。庭には詩『初恋』に登場するりんごの木も植えられ、作品の背景に思いをはせられる、文豪を育んだまちの必見スポット。
吉田 由実さん
Profile
馬籠宿で生まれ育ち、一度は県外へ出たのち、10年前に家族とふるさとへ。子育て支援に携わりながら、馬籠宿の魅力を伝えている。
MOVIE
石畳の美しい宿場町
Special Interview大友 花恋
私を、家族みたいに受け入れてくれて
人の温かさに、ふれた旅でした!
行く先々で、皆さんがいろんなものをお裾分けしてくださって。よそから来た私を、家族みたいに受け入れてくれるんだなって、すごく嬉しかったです。人の温かさを感じました。案内してくれたロコレコさんも、道すがら出会った人たちも。まちの人とのふれあいこそ、この旅でいちばん心に残ったものでした。
いつもは目的のために歩くけれど、ここは観光しながら、気づいたら絶景にたどり着いている。登る道も、その先も楽しいんです。天空の山城とうたわれる苗木城跡に、石畳の馬籠宿。歩くほどに、中津川市の奥深さに出会えた旅でした。
中津川市の栗はしっとりみずみずしくて、味も濃い。栗きんとんもモンブランもテリーヌも、同じ栗なのに、まるで印象が違うんです。どれも手がこんでいて、愛があって、だからこんなに美味しいんだと、納得しながらいただきました。
これから中津川市は紅葉ですし、栗も旬を迎える季節。この放送やweb公開がある頃も、きっと見どころたくさんですよね。ぜひこのまちを、味わいに来てほしいです。案内してくださった皆さん、中津川市の皆さん、本当にありがとうございました。また、必ず来ます!
撮影・取材協力 岐阜県中津川市