山奥のパン屋さんから
囲炉裏の隠れ家レストランへ
「人里離れて、また山奥にやってきました。緑がいっぱい!」。3人目のロコレコさんに出会うため山道を進んでいると、どこからか香ばしい匂いが漂ってきます。「なんかいい香りがします。なんだろう?」と香りのもとを探す矢吹さん。
「矢吹さーん!」と迎えてくれたのは、この旅3人目のロコレコさんの松村 有希(まつむら ゆき)さん。フランスで暮らしていた頃、夫のアクセル・バザンさんと日本を旅して立ち寄ったのが愛媛県でした。空き家を紹介してもらったのをきっかけに、4年前に東温市へ移り住み、2022年に2人でパン工房「アクセルパン」を開きました。工房の奥では、アクセルさんが薪の炎でパンを焼く準備の真っ最中。「電気オーブンじゃなくて、薪の炎でパンを焼く、とても古代的なパンの焼き方をしています」と松村さん。矢吹さんも長い棒を借りて、窯の火加減を整える作業に挑戦!「重たい……せーの!」炎の熱を間近に感じながら、「熱い!アニメで見るような感じですね」と目を輝かせます。
焼きたてをいただくのは、「サワードウ」と呼ばれるパン。イーストを使わず、小麦粉と水だけで起こした生地の力で膨らませる製法で、その歴史は古代エジプトにさかのぼるともいわれます。「パンのご先祖さんなんです」と松村さん。材料は小麦粉と塩と水の3つだけ。アクセルさんはフランス・ブルターニュ地方で修業したパン職人。小麦粉は愛媛県産を使っています。この日のパンは、水の代わりに甘酒を加えた「甘酒パン」。手に取った矢吹さんが「確かに持った感じが……」と言うと、「重いですよね」と松村さん。割ってみると、ずっしりとした重みが手に伝わります。「すごいもちもち!甘さもあるんですけど、すごく自然で、ジャムにもバターにも合いそうな優しい味です」アクセルさんに向けて「セボン!」と伝えると、うれしそうな笑顔が返ってきました。
「今日は何をレコしてくれるんですか?」と矢吹さん。「完全予約制の、里山に隠れた私の大好きなレストランです」そう言って松村さんが案内してくれたのは、工房から歩いてほんの少し。「赤そばどころ」の看板を掲げる農家レストラン「ぼたん茶屋」です。アクセルさんがパンを焼く工房を貸してくれたのが、この店を営む永井 公一(ながい きみかず)さん。「永井さんがいなかったら、アクセルもこの場所でパンを焼けていないんです」と松村さんが話してくれました。
「わー、素敵!お家みたい」。民家のような店内には囲炉裏が切られ、鮎や鶏がじっくりと焼かれていました。料理を手がけるのは、永井さんの奥さま・里美(さとみ)さん。畑で採れた野菜を中心に、ほとんどの食材がこの近所でまかなわれています。そばの実を揚げたチップスに、つるむらさきと柿の和えもの、掘りたての落花生「おおまさり」の塩ゆで……。「枝豆みたいな食感のピーナッツ、初めて食べました!」と笑顔の矢吹さん。
遠火で皮目をパリッと焼き上げた鮎にかぶりつくと、「わっ、みずみずしい!焼いてあるのに、身がふっくらふんわりしてます」と矢吹さん。そこへ「お料理に合うお酒があるので、ぜひ飲んでいただきたいです」と永井さんが持ってきてくれたのは、自家製のどぶろく「ながい」。原料は、永井さんが自ら育てた井内(いうち)の棚田米と麹だけ。東温市は「どぶろく特区」に認定されていて、自分で米を育てる農家が、その米でどぶろくを造ることができるのです。
「どぶろく、私初めてかもしれないです。お米のつぶつぶ感もしっかりあって、本当に美味しい」と矢吹さん。糖類は一切加えず、甘みは発酵から生まれる自然なもの。全国どぶろく研究大会では入賞を重ねてきた、こだわりの一杯です。実は先ほどの甘酒パンに使われている甘酒も、永井さんの手づくり。「永井さんとアクセルのコラボが甘酒パンなんです」とにっこり微笑む松村さん。
矢吹さんもいただいた、ぼたん茶屋のどぶろく「ながい」は、東温市のふるさと納税の返礼品にも選ばれています。
締めは、この店の主役である手打ちそば。上には、ピンク色の小さな花が添えられています。「これが赤そばですね。ちょうど時期的に今、咲いてるんですよ」と永井さん。ネパールの標高4,000mほどの高地に咲いていた赤い花のそばを、信州大学で品種改良した「高嶺ルビー」で、畑で育てて自家製粉しています。そば粉だけで打つ十割そばは、その日の予約に合わせて朝に打つのだとか。「すごく甘いです!噛めば噛むほど甘みがきますね。つゆなしでも美味しい」と矢吹さん。岩塩を削ってぱらりとかければ、そばの甘みがいっそう引き立ちます。
「素敵な空間で食べるから、よりほっとして。おなかも心もいっぱいになりました」と満足そうな矢吹さん。どぶろく「ながい」で松村さんと、もう一度乾杯して、食事を楽しみました。山里の恵みと人の温かさを、囲炉裏ばたでじっくり味わった時間でした。
農家レストラン ぼたん茶屋
のうかれすとらん ぼたんぢゃや
1996年創業。どぶろく工房を併設する、井内地区の農家レストラン。料理を担う永井 里美さんが、自家栽培の米や野菜、地域のお母さんたちが育てた旬の野菜を使って献立を組み立てるため、メニューは季節ごとに変わる。そばランチのほか、和食ランチや蕎麦会席、どぶろくを使ったぼたん鍋のコースもあり、いずれも予約制で4名から。どぶろく「ながい」は甘口・中辛・辛口の3種類で、そばやはだか麦で仕込んだ変わり種も手がける。近くには築150年を超える茅葺き屋根の古民家「井内の里 人空田」があり、一棟貸しの宿泊も。山里の時間に、心ゆくまで身をゆだねたい。
アクセルパン
松村 有希さん
Profile
フランス在住時に夫のアクセル・バザンさんと日本を旅し、立ち寄った愛媛県で空き家を紹介されたのを機に東温市へ移住。東温市の好きなところは「人のやさしさと大自然と、水がおいしいところ」
MOVIE
ぼたん茶屋
お隣、西条市で
鉄板ナポリタンと洋風焼き鯛めし