【ロコレコ】豊かな自然と海の幸 五感で体感!アジな旅!
2025.08.16
まちものがたりは、日本各地で観光やまちおこしに携わるキーパーソンが、ひと味違う旅を求める人に向けて、まちの魅力を紹介します。今回は山口県の日本海側、長門市の油谷湾(ゆやわん)を臨む『油谷湾温泉 ホテル楊貴館』の五代目である若旦那、岡藤明史さんが生まれ育った長門の魅力を独自の視点で紹介します。旅館の若旦那として、ホテルのコンシェルジュ以上にまちと深く繋がり、まちの魅力をとことん知る岡藤さんがおすすめする長門の味とスポットとは? (文・野﨑さおり/写真・柳沢庵)
⚫︎山口県長門市
美しい海と自然豊かな山に囲まれた山口県長門市。海に面した岩場にたくさんの鳥居が並ぶ元乃隅神社や日本の渚100選に選ばれた絶景スポット、青海島が全国的にも有名です。「わたしと小鳥とすずと」などの代表作のある詩人、金子みすゞ生誕の地でもあり、8世紀に世界三大美女の一人、楊貴妃が中国から流れ着いたという伝説もあります。近年では人口1万人あたりのやきとり店舗数が日本トップクラスのやきとりのまちとしても徐々に注目が集まります。
⚫︎『油谷湾温泉 ホテル楊貴館』五代目 岡藤明史さん
『油谷湾温泉 ホテル楊貴館』は年中穏やかな油谷湾を見渡せる場所に建つ1軒宿です。1973年創業で「美肌の湯」と評判の天然温泉も自慢です。2021年には「旅館甲子園」でグランプリに輝きました。
スリーピースのスーツをビシッと着こなす岡藤明史さんは1988年生まれ。大学進学を機に長門を離れ、福岡の建設会社で5年近く営業職に邁進しました。2015年に長門に戻り、現在は取締役として家業に携わっています。岡藤さんがUターンを決意したのは、離れていた約9年間で長門に魅力ある変化が起きていたから。
「家業を守っていた母からおもしろいものができた、新しい人が来たと聞いて気になっていました。いざ帰ってきてみると、まちには新しい魅力が加わっていて、いろんな人に出会い、教えられています。今回は、子供の頃からあるもの、新しいものなど、どれも今、地元の人から愛されるものや場所を紹介します。長門を訪れる人にもリピートしていただけそうなものばかりです」(岡藤さん)
『楊貴館』五代目 岡藤さん
人口に対して焼き鳥店が多い長門では焼き鳥はソウルフードです。『こうもり』は、長門でいちばん古い焼き鳥屋さん。小学生のころに祖母が連れて行ってくれた思い出の店です。長門の焼き鳥店は焼き手が女性の店が多く、『こうもり』でも代々女性が焼いています。
初代のアイデアを受け継いで3代続けて女性が焼く焼き鳥
『こうもり』の創業は戦後間もない1948年。海に面した長門で仕事が終わった地元の漁師たちが飲みに来られるようにと14時から店を開け、ずっと地元に愛されてきました。初代から現在の女将さんまで3代続けて女性が焼き手を務めています。
『こうもり』は、長門スタイルの焼き鳥を産んだ店といわれます。その特徴は、長ネギではなく玉ねぎを肉の間に挟んでいることや、テーブルにガーリックパウダーが備えられていることなど。
「うちのかしわは、ももではなくて胸肉なんです」と焼き台の上で手際よく串を返し、うちわで扇ぎながら女将さんは話します。胸肉というとパサつきやすいイメージですが、焼き上がりは見るからにしっとり。その最大の秘密は高温の炭火で焼いていることが理由です。地産地消をモットーとする『こうもり』は、炭も長門市産を使っています。
皮も初代のアイデアを守るメニュー。「うちで皮と呼んでいるのは手羽先の先端部分。だから分厚く身が残っているんですよ」とご主人。
他にも、とりまめと言われる心臓やキンカンとも呼ばれるたまごなど、新鮮さがものをいう焼き鳥が並びます。鶏肉は「長州どり」という長門の銘柄鶏を使用。毎日その日に仕入れた新鮮な鶏肉を使っているから提供し続けられるメニューです。歴史を感じるL字のカウンターも魅力的。長門観光の最初に『こうもり』を訪れる人がいるというのも納得です。
『こうもり』店主大深さんご夫妻が考える長門の魅力
近隣の農家がいろいろな野菜を作っているし、イカやサザエなど海の幸にも恵まれていて、新鮮な食材が豊富です。
『楊貴館』五代目 岡藤さん
油谷湾を囲む向津具半島の先端、油谷島で塩を作る塩工房です。季節によって塩の味や色、味まで変わります。『百姓庵』の塩は『楊貴館』でも料理に使ったり、売店でも販売したりしています。代表の井上雄然さんは油谷湾が塩作りに最適だと移住してきて、長門の人たちの移住者への意識を変化させた人だと思います。
豊かな森の栄養が天然の味の素
油谷湾を囲む向津具半島の先にある『百姓庵』の塩工房があります。立体式の塩田がシンボリックです。代表の井上さんは塩づくりに適した海を求めて、1年かけて西表島から千葉まで海岸線を探し回った末に、最適な場所として長門に移住してきました。
井上さんは「森の栄養は天然の味の素」と話します。油谷湾は大小3つの川が流れ込み、海底からは淡水が湧き出す汽水域。辺りの山々は広葉樹を中心とした原生林で覆われていて、落ち葉が分解された山の栄養が川を通って海に流れ込み、プランクトンや魚が育つ循環が生まれます。
そのため塩の原料となる海水も季節によって変化。春は海藻の養分が多く藻塩のように、雨が多く海が濁る夏は旨みが強く、秋になると程よく澄んだスッキリ感があり、雨の少ない冬はすっきりした味わいに仕上がります。「この塩で結んだおにぎりは子供たちが大好きです」と井上さん。個性が際立つように季節ごとの塩としても販売しています。
下関市出身の井上さんは20代前半で自給自足の生活を求めて全国を回り、天草で塩作りの師匠に出会います。そのとき嗅いだ「釜で塩を炊く匂いをずっと嗅いでいたい」と塩作りの道を選択しました。
塩づくりに適した海を探し求めていた時、後回しにしていた地元、山口県。ところが日本各地を旅して出会ったのは故郷から近い油谷湾でした。移住後は地元の人たちとも積極的に交流し、現在の場所に工房を立ち上げることにつながりました。『百姓庵』には食のプロや多くの移住生活希望者が訪れて、井上さんの塩づくりや暮らしぶりを参考にしています。
塩工房では予約制の有料見学会が行われ、塩はもちろん『百姓庵』自慢の米や野菜、豚肉を使ってバーベキューが振る舞われます。
井上さんの考える長門の魅力
日本全国を回って、自然環境がここまで残っているのは珍しいと思います。その上、やっぱり人が素晴らしい。心を開いてくださったおかげで、今の事業につながっています。
『楊貴館』五代目 岡藤さん
長門ゆずきちという小ぶりの柑橘があります。酸味がキツくなくまろやかで使いやすい柑橘です。生産者の吉村多能志さんの息子さんと、僕の友人が同僚というつながりがあって、ある豊作の年にお裾分けをいただいたことがあります。果汁たっぷりで、種がほとんどないのも特徴で、『楊貴館』でも料理に添えて提供しています。
長門国オリジナルでゆずより優れているから『長門ゆずきち』
『長門ゆずきち』はカボスやスダチの仲間で、長門市の隣、萩市の田万川地区が原産です。独自品種だと確認されたのは昭和42年(1967年)のこと。下関市から長門市、萩市にまたがっていた長門国のオリジナルであることと、ゆずよりも優れているという意味を込めて、『長門ゆずきち』と命名されました。
『長門ゆずきち』8月中旬から10月中旬までが収穫期。直径4センチほどの実は、皮が薄くてはち切れそうなほど果汁が詰まっています。まろやかさな酸味が特徴で、焼き魚や焼き鳥に添えられるなど、食卓の名脇役として愛されています。収穫時期になると、長門市内の飲食店では長門ゆずきちサワーが大人気です。『長門ゆずきち』を使ったクッキー、ゆずきち胡椒など関連商品も豊富です。
吉村さんは長門市俵山地区で、1000平米の土地に70本ほどの『長門ゆずきち』を育てています。元は田んぼだった土地を、果樹栽培に合うように土壌を改良。元気に育つように毎年3月に枝の剪定を行っています。俵山地区の『長門ゆずきち』は種がほとんどないのが自慢です。
俵山地区の『長門ゆずきち』は種がほとんどないのが自慢です。「種ができるのは、雑柑の花粉を蜂が運んでくるからです。だから、蜂の行動範囲にある柑橘の木を全部切らせてもらったんですよ」と吉村さん。あちこち探しては民家にある柚子の木などを切らせてもらったほど、『長門ゆずきち』を大切に育てています。
県外に出荷されることが少ない『長門ゆずきち』。吉村さんは焼き魚にの果汁をかけて、塩分控えめの食生活に活用しているそうです。一方で、大好きな焼酎に絞り入れると「1杯が2杯になる」とにこにこと話してくれました。
吉村さんが考える長門の魅力
みなさん人柄がいいです。思いやりのある詩を書いた金子みすずのような人が生まれたのは、この土地の人たちが優しいからだと思います。
『楊貴館』五代目 岡藤さん
山口県が開発した『長州黒かしわ』というオリジナル地鶏が育てられています。国の天然記念物「黒柏鶏(くろかしわ)」の血を引く鶏です。養鶏を行う末永裕治さんは、平成24年に鶏舎が完成したときに記念のパーティーを『楊貴館』で開いてくれました。そんな縁もあって、『楊貴館』でも『長州黒かしわ』を食材として使っています。
15年をかけて開発した山口オリジナルの黒い地鶏
長門は戦前から養鶏が盛んな土地柄。かまぼこ製造で残った魚のアラを鶏の餌に活用して発展しました。全国的にも珍しい養鶏専門の協同組合『深川養鶏農業共同組合』があるほどです。
その長門で育つブランド地鶏が『長州黒かしわ』です。古くから山口県・島根県で飼育されている天然記念物「黒柏鶏」の血を引く地鶏として、15年をかけて開発されました。適度な弾力を持つ柔らかい地鶏で、噛めば噛むほどに味が出ると評判です。『長州黒かしわ』を育てる末永裕治さんは「食べると臭みのなさに驚きますよ」と話します。
『長州黒かしわ』の餌は山口県産の米、麦、大豆が6割以上。ミネラルや栄養分を補う配合飼料に、油脂分を含めないため、臭みのもとになる脂の塊がないのだとか。
加えて鶏舎に近づいてもほとんど匂いが気になりません。「鶏たちが吸う空気も肉に影響します」と末永さん。鶏糞を発酵させた害のない堆肥を、鶏舎に敷き詰めることで臭いが抑えられるのだとか。
末永さんおすすめの調理方法は水炊きです。「骨からいい出汁が出るから、締めに雑炊かラーメンで味わってほしい」とのこと。鶏舎の中では出荷間近の鶏たちが餌を啄んだり、窓の外をうかがいながら歩いたりと、のんびり過ごしていました。
『長州黒かしわ』は、年間約3万羽出荷されていて他の高級地鶏よりも少なく貴重な食材です。山口県内の飲食店や宿泊施設で食べることができます。市内にある『お食事処よし松』では塩焼きや唐揚げ、『和食処 きらく』では、『長州黒かしわ』をとり天や西京焼きにした長州黒かしわ御膳や黒かしわ親子丼を提供。旨みの強さとぷりぷりした食感で喜ばれています。
『長州黒かしわ』を育てる末永さんが考える長門の魅力
別の土地に行くたびに長門にはいろんなおいしいものがあると気が付きます。災害も少ないのもありがたいですね。
『楊貴館』五代目 岡藤さん
『青舞』は、長門育ちで現在は京都でワインを扱っている西村さんが、2019年5月に始めた蒸留所『Neo Blue Distillery』で作っているジンです。香りづけに長門で栽培したハーブを使用しています。『楊貴館』でもボトルを販売。1階のバー『海と月』でも飲むことができます。
長門のテロワールを感じるクラフトジン
長門市役所油谷支所の向かいにある、レトロで小さな建物が『Neo Blue Distillery』です。1度に100リットル蒸留できる、オランダ製の蒸留機を導入する小さな蒸留所。ここで生まれたジン『青舞(オーブ)』は、世界的なジンのコンペティションで栄誉ある賞を受賞しています。
代表の西村一彦さんは長門育ち。現在は京都市在住で妻の実家である酒店を継ぎ、ワインを多く扱っています。ジンを作り始めた理由を「周りの酒好きが健康を損なわないお酒を作りたいと思ったから」と話します。アルコールは体に影響のあるメタノールではなく、エタノールだけを使用し、女性ホルモンのバランスを整えるバラを加えて、健康と美も意識しています。
西村さんはジンの発祥地であるオランダで作り方を学びディプロマを取得。豊かな香りが特徴となるジンに土地の色を出したいと、島根県で栽培されたバラに加えて、長門で栽培された西洋ハーブの香りを移しています。
特にハーブは「長門の土壌はヨーロッパに近いので、西洋のハーブが向いているはずだ」と同級生らと協力して栽培したものを利用。
西村さんが『青舞』の飲み方としておすすめするのはカンパリとベルモットを加えたカクテル「ネグローニ」。独特の香りの強さが感じられる飲み方なのだとか。『青舞』は近々ヨーロッパで販売される計画もあり、長門発の世界に誇るジンとして、存在感を増していきそうです。
西村さんの考える長門の魅力
長門の日本海に夕陽が落ちた瞬間、空が青くなって雲が海から山に流れていく様子がすごくきれいです。他では見られない景色だと思います。青舞という名前は、その美しい景色から名づけました。
館内各所から穏やかな油谷湾が見渡せ、夕日の美しさと、滑らかな天然温泉、地元の新鮮な食材をいかした料理が楽しめる宿。旅館の名前は、対岸の向津具半島に楊貴妃が流れついたとされる楊貴妃伝説に由来しています。
2つある露天風呂は、どちらもこれ以上ない開放感あるロケーション。トロトロとした温泉のおかげで、湯上がりにはツルツルの肌を実感できます。
1階にある日本酒バー「海と月」では山口県内にある酒蔵の日本酒を紹介。ウェルカムドリンクとして日本酒を味わえる宿泊プランも用意されています。スタッフのおもてなしには定評あり。
長門には、ずらっと並ぶ鳥居が有名な元乃隅神社、「海上アルプス」と称される景勝地の青海島など、県外の方にもよく知られた観光スポットがあります。今回ご紹介したのは地元の人たちが親しみ、誇りに思う名物ばかりです。他にも紹介しきれないほど魅力あるものがたくさんあります。ぜひ、長門に遊びに来てください。『楊貴館』で尋ねていただければもっといろんな魅力をご紹介しますよ。
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