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【天草】“野生のラグジュアリー”がここに。山ひとつを丸ごと抱く温泉旅館「石山離宮 五足のくつ」で過ごす、大人のエキゾチック・エスケープ

日本でもない、九州でもない、「アジアの中の天草」がここにある。

熊本県の西南部に位置し、大小120の島々からなる天草諸島。1566年にキリスト教が伝来して以来、西洋の学問や絵画、音楽といった異文化が交錯し、かつてこの地は艶やかな歴史の記憶を紡いできました。

天草西海岸の穏やかな地形の中で、下田温泉地区にある老舗旅館の6代目オーナーが2002年に開いた「石山離宮 五足のくつ」は、従来の温泉旅館の概念を心地よく変えた、天草の風土と異国ロマンを美しく表現した唯一無二の空間です。日常の忙しない時間の流れをそっと手放し、雲仙天草国立公園の圧倒的な自然と16世紀の記憶にその身を委ねる、贅沢な「大人の逃避行(エキゾチック・エスケープ)」へご案内します。

境界のない空と海。16世紀の記憶が息づく、雲仙天草国立公園の隠れ家へ

古くから海を介して世界と直接つながり、東京よりも上海が近く感じられたという天草。異国の船が行き交ったこの島は、かつて日本という枠組みを超え、アジアの多様な文化が交差する豊かな玄関口でした。

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そんな天草の西海岸側、雲仙天草国立公園の山ひとつを丸ごと抱くように佇むのが「石山離宮 五足のくつ」です。創業は2002年。下田温泉地区にある老舗旅館「伊賀屋」の6代目オーナーである山崎博文氏が立ち上げました。かつて映画監督や小説家を志していた山崎氏が、自身の感性や描きたい物語を「旅館」というメディアにのせて、日本でも九州でもない、「アジアの中の天草」というひとつの独立した世界観として見立てて創り上げたのがこの宿です。目指したのは、均一化された和風旅館ではなく、天草の歴史や風土そのものを伝える「ご当地旅館」。館名は、明治時代にこの地を訪れた与謝野鉄幹や北原白秋ら、5人の若い詩人たちが残した紀行文「五足の靴」に由来しています。約1万坪の広大な敷地には、趣の異なる2つのエリアからなり、斜面に寄り添うように建つどこか懐かしい佇まいの「Villa A/B棟」と、そこからさらに森の奥深くへと登った山の斜面にあるのが、今回ご紹介する「Villa C棟」です。まるで違う施設かと思わせる2つの世界が存在し、Villa CはA/B棟の宿泊客も立ち入ることができない、わずか5室だけの完全に独立したプライベートな空間となっています。

15:00〜チェックイン 古い港町の記憶を宿す巨木に導かれ、滞在を彩る本と音楽に出会う

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宿の敷地に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、ガジュマルのように力強く根を張る巨木「アコウの木」。かつて古い港町で船を係留するために植えられていたというその樹木は、日常からエキゾチックな異世界へと旅人を誘うゲートのようです。あえてきれいに造り込みすぎない、樹木本来ののびのびとした生命力。鳥の声や木々のざわめきをそのまま感じられるよう設計されたこの空間で、日常の慌ただしさを手放し、天草のありのままの自然と風土に身をゆだねる旅が始まります。

チェックインの手続きを行うのは、Villa C棟のパブリック棟である「天正(てんしょう)」。異国情緒が漂うこの場所は、オーナー山崎氏のこだわりが詰まった静かな空間です。

まずは冷えたビールを片手にテラスサイドで喉を潤すアペリティフタイムを。続くライブラリーでは、棚にずらりと並ぶオーナーがセレクトした映画のDVDや、CD、旅の想像を膨らませる本の中から「この滞在中に寄り添ってほしい一冊・一枚」を選ぶのが、この宿ならではの贅沢な過ごし方です。ここで選んだ本や音楽をお部屋へ持ち込み、自分だけの静かな時間に浸る準備を整えます。

15:30〜「雑木林の向こうに見える海」を愛でる。完全に独立したプライベートヴィラで過ごす、贅沢なこもり時間

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山の斜面に沿ってポツポツと点在するVilla Cのお部屋は、まさに日常から離れて静かにこもるためのプライベートヴィラ。昔ながらの瓦屋根に引き戸という風情ある「和」の外観でありながら、一歩足を踏み入れれば、赤を印象的に配した上質な完全洋風の空間が広がります。

キングサイズのベッドが2台並び、石山(天草陶石)の磁器を思わせる可愛らしいデザインの洗面台やトイレがそれぞれ2つずつ備わるなど、ゆとりのある贅沢なスケール感が魅力です。お部屋には先代の女将さんのレシピを継承した手作りの「よもぎだんご」が用意されており、その素朴で温かい味わいにほっと心が解きほぐされます。

お風呂は、優雅な室内風呂に加えて、全室緑豊かな木々に囲まれた野趣あふれる露天風呂を完備。密生する木々の生命力と自然の風を肌で感じながら湯に浸かる時間は、まさにエキゾチックな異世界そのものです。部屋の窓や露天風呂から望むのは、あえて180度のパノラマにせず「雑木林の向こうにひっそりと見える海」。これこそが、宿が大切にする「天草らしさ」の原風景です。小鳥のさえずりや木々のざわめきに耳を傾け、ただ静かにお部屋で過ごす贅沢な時間が、日常の慌ただしさを完全に忘れさせてくれます。

17:00〜雲仙天草国立公園の静寂を歩く。緑のトンネルを抜けた先に広がる、鬼海ヶ浦の絶景

お部屋で静かに過ごした後は、夕涼みがてら宿の外へ。この宿は雲仙天草国立公園の敷地内にあるため、一歩外に出ればそのまま野生味あふれる自然の小道へと繋がっています。頭上を覆い尽くすほどの緑と密生する木々に包まれた道は、歩いているだけでも生命力を肌で感じるような野趣あふれる空間です。

小鳥のさえずりや風に揺れる木々の音を全身で浴びながら緑のトンネルを抜けると、鬼海ヶ浦の雄大な風景が飛び込んできます。ダイナミックな海食崖と奇岩が連なるこの場所は、まさに手つかずの自然そのもの。展望所から東シナ海の水平線を眺めれば、迫力ある地層と力強い波音を肌で体感することができます。

18:30〜教会を思わせる静謐な空間で。16世紀の物語と天草の滋味に富んだ料理を味わう特別な夜

夕食の舞台は、教会を思わせる高い天井と静謐な空気に満ちた空間の、「レストラン天正」でいただきます。ここは全席がプライベートな個室となっており、周りを気にせず自分たちだけの贅沢な時間に没頭できます。一般的な温泉旅館のような時間縛りはなく、18:00〜20:00の間でゲストのリズムに合わせて優しく迎えてくれるのも、この宿の粋なおもてなしです。

Villa C棟で提供されるのは、全11品からなる特別な懐石コース。天草の旬の地魚のお造りや地野菜をはじめ、食材そのものの旨みをまっすぐに引き出す丁寧なお料理の数々です。中でも南蛮渡来の食文化を感じさせる天草の名物料理「地魚のオランダ煮」は、油で揚げて香ばしさを引き出した地魚と出汁の旨みが染み渡る、この土地ならではの味わい。さらに、16世紀にローマへ渡った天正遣欧少年使節団が旅先でもてなされた宴をイメージした物語のある一皿ひと皿が、かつての異国情緒と天草の風土をドラマチックに伝えてくれます。

宿泊施設
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コースのハイライトを飾るのは、Villa C名物「天草大王石焼き蒸し鍋」。体長90cm、体重約7kgという日本最大級の地鶏「天草大王」を豪快に味わう逸品です。熱した溶岩石の上で天草大王をジューッと焼き上げ、軽く火が通った絶妙なタイミングで旨みたっぷりの鶏ガラスープを回しかけて一気に蒸し焼きに。立ち上る香ばしい湯気とジューシーな音の演出は、まさに五感を揺さぶる体験です。

さらにこの宿の魅力は、基本コースだけに留まらないアラカルトメニューの豊富さ。特に夏の時期にぜひ味わいたいのが、旬の旨みが詰まった「地ダコのお造り」です。ボイルするのがタコの一般的な食べ方ですが、ここでは産地だからこそ叶う新鮮な生のままお刺身で堪能できます。噛むほどに甘みと旨みが溢れ出る天草の地ダコは、ここでしか出合えない贅沢。ほかにも季節ごとに頼みたくなる魅力的な料理がずらりと揃い、天草の豊かな食の深さに驚かされます。

19時半頃の日の入りの時間に合わせて、食事の途中に外へ抜け出し、「日本の夕陽百選」にも選ばれている鬼海ヶ浦の夕景を眺めに行くのもここでの夜の楽しみ方のひとつです。東シナ海の水平線がゆっくりと茜色に染まっていく絶景に胸を打たれた後は、再び温かい個室へ戻って食事の続きを。

夕陽の余韻と、ストーリーの詰まった料理やお酒に酔いしれながら、天草の夜はゆっくりと更けていきます。

8:30〜澄んだ朝の光と鳥の声。天草の風土と手仕事のぬくもりを味わう朝食

自然の柔らかな光と小鳥のさえずりで目覚める、爽やかな天草の朝。大自然の静寂に包まれたプライベートヴィラだからこそ、穏やかな目覚めが叶います。お部屋の露天風呂で朝日を浴びながらの朝湯を満喫したり、静かなテラスで深い呼吸をしてみたりと、思い思いの時間を過ごせます。Villa C棟での朝食は、ゲストの好みに合わせて和食または洋食から選べるスタイル。個室の食事処で、朝の光を感じながらゆったりと楽しむことができます。

和食の主役は、世界遺産でもある近隣の「崎津(さきつ)集落」のおばちゃんが作る手作りの「あじのみりん干し」。伊賀屋旅館の先代女将の時代から受け継がれた特別な逸品で、半生で肉厚ジューシーな旨みが口いっぱいに広がります。天草の手作り味噌「田口みそ」を使ったアオサのお味噌汁や、自家製豆腐、ヒジキの煮物など、天草の豊かな海の恵みと滋味が身体にじんわり染み渡ります。

洋食は、天草の窯元「蔵々窯(ぞうぞうかま)」が五足のくつのために手掛けた白磁の器で登場します。メインのフリッタータは、16世紀に天正遣欧少年使節団がローマで振る舞われた料理を五足のくつ流に再現したストーリーのある一皿。ほかにも、福岡にある「空のパン」が天然酵母から手ごねで作る焼きたての塩パンや黒糖パンや、生アオサの洋風スープとともに、優雅な朝の時間を彩ります。

食後はテラスで温かいコーヒーを片手に、目線の高さに広がる青々とした東シナ海をゆったりと眺める贅沢。お腹も心も満たされる、至福の朝のひとときです。

12:00〜12時チェックアウトの圧倒的なゆとり。手仕事の温もりに触れるコレジオでの締めくくり

「五足のくつ」の大きな魅力のひとつが、心ゆくまで朝の時間を楽しめる「12時チェックアウト」。朝食を終えた後も時間に追われることなく、お部屋で二度寝を楽しんだり、露天風呂にもう一度浸かったりと、出発の直前までプライベートな「こもり時間」を堪能できます。名残惜しさを感じつつお部屋を後にしたら、敷地内のレセプション・ライブラリー「コレジオ」へ。ここには天草が誇る特産品「天草陶石」を使った美しい磁器や手仕事の品々が並べられています。

味わい深い窯元たちのお皿はもちろん、愛らしい「天草ボタン」や洗練されたアクセサリーまで並び、目移りしてしまうほどの可愛らしさに思わず胸が高鳴ります。客室や食事処で触れた美しい器や手仕事の余韻に浸りながら、持ち帰る思い出の品を選ぶ時間は、旅の最後を締めくくる特別な体験です。温かいお見送りに包まれながら宿を後にすれば、心も体もすっきりと解き放たれ、深い満足感に満たされていることに気づきます。

12:30〜宿を後にして、世界遺産・崎津集落へ。潜伏キリシタンの歴史と豊かな風土に触れる

チェックアウト後は、車で20分ほどの場所にある世界遺産の「崎津(さきつ)集落」へ足を延ばすのがおすすめのルートです。かつて海外の船が漂着する際に幕府が番所を置いた歴史があり、いまも静かな港町の中にキリシタン文化の風習が残る、どこかノスタルジックで特別な空気が流れる場所です。

穏やかな海に面して建つ「崎津教会」を中心に、入り組んだ細い路地を散策すれば、朝食の「あじのみりん干し」を作ってくれた漁師のおばちゃんたちが暮らす、素朴で温かい人々の営みを肌で感じることができます。

「石山離宮 五足のくつ」で過ごした密度の濃い時間と、その背景にある天草の歴史や文化。その双方の点が美しくつながり、旅の体験がよりいっそう深く鮮やかなものとして心に刻まれていきます。

石山離宮 五足のくつ

撮影/北尾渉 構成・文/土屋志織

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