福島県桑折町|あつい夏だから 桃づくしの”こおり”へ
2026.07.25
コンクリートの剥き出しの空間を縦横無尽に走る光のパイプ、緑豊かな丘のような建築、そして前橋を流れる広瀬川の心地よい風――。群馬県前橋市にある「白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)」は、国内外のトップクリエイターが集結して誕生した、アートと食が融合する体験型ホテルです。一見、エッジの効いたデザインホテルでありながら、一歩足を踏み入れれば、不思議と心が静かに整っていくのを感じます。今回は、そんな白井屋ホテルを舞台に、1泊2日のおひとりさまリトリートステイをご紹介。上質な食体験に溺れ、サウナで心身を緩め、前橋の街とつながる。一人旅だからこそ、すべての景色や味わいが五感にダイレクトに響く、インスピレーションに満ちた旅へ出かけてみませんか?
東京から新幹線と在来線を乗り継いで1時間半。群馬県前橋市が今、感度の高い大人の間で密かに注目を集めているのをご存知でしょうか。かつて生糸の街として栄えた前橋は今、「めぶく」というビジョンを掲げ、街全体のクリエイティブな再開発が進んでいます。 歩いてまわれる心地よいサイズ感(ヒューマンスケール)の街中には、広瀬川沿いの美しい柳並木、現代アートに出会える美術館やギャラリー、そして気鋭の建築家たちが手がけた個性豊かなショップが点在。街全体がまるで一つのオープンな美術館であるかのような、知的な活気に満ちあふれています。

そんな新生・前橋のシンボルであり、街の活性化の起爆剤となったのが、今回ご紹介する「白井屋ホテル(SHIROIYA HOTEL)」です。江戸時代から300年続いた「白井屋旅館」を、地元出身の起業家であるアイウエアブランド「JINS」の創業者田中仁氏が個人の財団を介して購入。世界的建築家・藤本壮介氏をはじめとする国内外のトップクリエイターたちが結集し、約6年半の歳月をかけて再生。2020年、まったく新しいアートデスティネーションとして生まれ変わりました。館内は、70年代のコンクリート構造を大胆に剥き出しにした「ヘリテージタワー」と、緑豊かな「グリーンタワー」の2棟で構成されています。一歩足を踏み入れれば、そこはアートの迷宮。吹き抜けを縦横無尽に走るレアンドロ・エルリッヒ氏の光のパイプをはじめ、客室や共用部の至る所に一流アーティストの作品が溶け込んでいます。
ホテルに到着し、エントランスパサージュに描かれているのは、ニューヨークを拠点に活動している英国出身のアーティスト、リアム・ギリック氏が手がけた14世紀の詩人ジェフリーチョーサー氏の「カンタベリー物語」に描かれている挿絵をモチーフにした作品。あえて逆さまに描かれている作品に目を奪われるとともに、日常の思想のスイッチが切り替わるのを感じます。チェックイン時、スタッフによるホテル案内とともに渡されたのは、館内を彩るアート作品のガイドブック付きインフォメーションブック。この本を片手に、館内に隠されたアートを探す宝探しのような時間が、いよいよ始まります。
チェックインを終え、ガイドブックを片手に本日のお部屋へ。白井屋ホテルの客室は、国内外のクリエイターがそれぞれ異なるデザインを手がけており、ドアを開ける瞬間はまるで美術館の個室ギャラリーを訪ねるような高揚感に包まれます。今回選んだお部屋はROOM 02のベルリンを拠点に活躍しているアーティスト、塩田千春氏の作品が展示されるツインタイプの客室。グレーとグリーンを基調とした室内に飾られている塩田さんのドローイングコレクションをじっと見つめていると、頭の中がクリアになり、新しいアイデアが溢れ出てきそうです。


お部屋で一息ついた後は、ホテルスタッフの案内による館内アートツアーへ(※毎日17時と翌朝10時に実施される無料ツアー)。白井屋ホテルの真髄は、ただ作品が飾られているだけでなく、建物そのものや客室、パブリックスペースのすべてが国内外のトップクリエイターたちの共演の場になっている点です。
一人で自由に眺めるのも楽しいですが、ツアーに参加してスタッフの方から作品の背景にあるエピソードや、前橋の街とアートの繋がりを教えてもらうことで、目の前の作品がさらに深みを増して見えてきます。
アートに満ちた館内を巡った後は、ディナーの前のワンクッション。「the LOUNGE」で頂くアペリティフの時間です。先ほどツアーで触れたアートの余韻に浸りながら、地酒とともに自分のためだけに流れる静かで贅沢なひとときを過ごします。
アペリティフでお腹をすかせた後は、いよいよメインダイニング「the RESTAURANT」へ。ここはフランス発祥の世界的食のガイド『ゴ・エ・ミヨ』に5年連続で掲載されている、名実ともに前橋を代表する名店です。一口ごとに広がる驚きや素材の組み合わせの妙に研ぎ澄ませる時間は、一人旅だからこそ叶う究極の贅沢。料理が持つストーリーやシェフの美学と1対1でじっくり対峙するディナータイムは、お腹を満たすだけでなく、内なる感性を満たしていく特別な体験になります。


食後のおたのしみは、完全予約制のデザインされた「the SAUNA」へ。この日選んだのはフィンランドサウナ。ホテルオリジナルのアロマオイルを使ったセルフロウリュで、心地よい熱気と香りに包まれてじんわりと汗を流します。自分の呼吸と向き合い心身をディープに解きほぐした後、フィンランドサウナのもう一つの楽しみは、グリーンタワーの頂上にあるアーティスト宮島達男氏の、デジタル・カウンターを用いたインスタレーション作品が鑑賞できる特別小屋でのととのい時間。室内で静かに作品と対峙することで、自分を見つめ、思考する。それはもはや瞑想も兼ねた特別なととのい時間です。


サウナで心身をニュートラルに整えた後、夜の館内へ。昼間とはまったく違う表情を見せるのは、吹き抜けに浮かび上がるレアンドロ・エルリッヒ氏の「ライティング・パイプ」。夜ならではの幻想的な光を放ち、空間をロマンチックに彩っています。

アート鑑賞のおともは、心地よく乾いた身体に染み渡る群馬名物「おきりこみ」で贅沢な夜食を。優しい出汁の旨味で身体の芯からじんわりと温まりながらアート作品を堪能する――これこそ、おひとりさまの夜だけに許される特別な特権です。

深い眠りから目覚め、朝食をいただきに「the LOUNGE」へ。吹き抜けから降り注ぐたっぷりの自然光と、館内を生き生きと彩るグリーンのコントラストは、昼や夜の雰囲気とはガラリと変わり、開放的な心地よさに満ちています。

そこでいただく朝食は、ヘッドシェフ片山ひろ氏が監修する群馬の恵みがふんだんに詰まったモーニングボックス。シェフのお母さんから受け継いだ漬物や赤城山で育った福豚を使ったソーセージ、創業450年の糀屋さんの味噌で仕上げたお味噌汁―。郷土愛に溢れた一品一品を堪能しながら、身体の隅々まで優しい一日が始まります。
朝食後の余韻に浸りながら、チェックアウト前にお土産選びへ。白井屋ホテルの敷地内には、地元民にも人気のパティスリーとベーカリーが併設されています。まずはフレッシュな旬のフルーツをふんだんに使ったタルトや、風味ゆたかな焼き菓子が並ぶ「the PÂTISSERIE」でメディアで話題となったフィナンシェをチョイス。
その後は、香ばしいかおりに包まれたすぐ隣の「the BAKERY」へ。ここには、こだわりのオーブンで焼かれたパンがずらりと並びます。一番人気のシナモンロールのほか、スパイス効いたスーンなど、旅が終わった後の自宅での朝食を想像しながら、食べたいものを自由気ままに選びます。

センス溢れるお土産たちを詰め込んだら、いよいよ11時のチェックアウト。荷物を預けて、前橋の心地よい街歩きへ出発です。

チェックインのあとは、白井屋ホテルが一つの起点となった「めぶく」前橋の街へ。前橋はアートやデザインを堪能するのに心地よいサイズ感(ヒューマンスケール)が魅力です。この旅を締めくくる最後の目的地は、緑豊かな敷島公園のほど近くに佇む赤いドーム型の外観が特徴的な「フリッツ・アートセンター(Fritz Art Center)」。

ここは、前橋の文化的な発信地として長年愛されてきた、絵本専門店やギャラリー、雑貨やコーヒースタンドを併設したアートスペースです。一歩足を踏み入れると手に取らざるをえない、大人の感性をも刺激する美しい本や作品が並んでいます。一人旅だからこそ、誰の目も気にせず自分の直感のままに本を手にとる―心ゆくまでアートの余韻に浸ることができます。
白井屋ホテルとともに前橋の街が持つアートへの熱量は、日常から離れて自分自身をリセットしたい大人の一人旅に、この上ないエネルギーをチャージしてくれた時間となりました。
撮影/北尾渉 構成・文/土屋志織
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