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【福井・あわら温泉】「純生の湯」と昔ながらの数寄屋造りに癒やされて。昭和の面影を残す宿「越前あわら温泉 つるや」で過ごす、上質な一泊二日

2024年春の北陸新幹線延伸開業により、都心からもいっそう身近になった芦原温泉。福井県屈指の温泉街として昔から多くの人に愛されてきたこの地に、明治17年の創業以来、震災や芦原大火という度重なる試練を、文字通り不死鳥のように乗り越えてきた歴史を持つ「越前あわら温泉 つるや」。背筋が伸びるようなお堅い空間ではなく、そこにあるのは昭和の名棟梁が手間暇をかけて仕掛けた大らかな遊び心と、湧き立ての純生の温泉です。名棟梁が造り上げた客室で庭園を眺めながら静かに過ごし、湯の温もりに身を委ねる―。心と体を深く解きほぐす、上質な大人の旅へと誘います。

明治17年創業。あわら温泉と共に歩んできた、昭和の名棟梁が手がけた歴史ある宿

「関西の奥座敷」として古くから多くの人に愛されてきた、北陸・福井県屈指の温泉街・あわら温泉。その始まりは明治16年、ひとりの農民が井戸を掘った際、ほんのり塩味の効いた湯が湧き出たことに遡ります。山や海に直接面しているわけではないこの街で、あわら温泉の宿は各自が敷地内に井戸を掘り、独自の湯と文化を育んできました。

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「水田の中から湯が湧いたあわらには、ことさらの美景はございません」。つるやの公式サイトに記されたこの実直な言葉にこそ、この温泉街と宿の本質が表れています。あわら温泉開湯の翌年である明治17年に創業した「越前あわら温泉 つるや」は、おめでたい「鶴」の屋号を掲げ、街の歴史と共に歩んできました。震災に加え、昭和31年の芦原大火による建物の全焼と、度重なる試練に見舞われながらも、その都度不死鳥のように立ち上がってきた歴史を持ちます。

現在の本館は、芦原大火の直後、関西を代表する数寄屋造りの名棟梁・故 平田雅哉(ひらた まさや)氏に依頼し、手間をかけて完成させた昭和の名建築。街の情緒に溶け込む全23室の空間で、名工の手仕事とあわら温泉の地層を感じる滞在が始まります。

15:00〜チェックイン:女将さんの温かい笑顔のお出迎えとロビーで楽しむお抹茶とお茶菓子

ガラガラと昔ながらの引き戸を開けて館内に一歩足を踏み入れると、女将の小田絵里香さんが笑顔で出迎えてくれます。靴を脱いで上がる館内は、歩みを進めるごとに木のぬくもりが足裏からじんわりと伝わってくる心地よい空間。ふと玄関のガラスに目をやると、昔の職人さんが手作業で繊細に削り出した鶴の意匠が目に入ります。

到着後は、坪庭を望む落ち着いたロビーへ。丁寧に入れられたお抹茶と地元のお茶菓子をいただきながら一息つく時間は、移動の緊張をふっと解きほぐしてくれます。これからはじまる上質な滞在への期待が高まる、つるやならではの最初の温かいおもてなしです。

15:30~客室紹介:職人の遊び心に触れる、趣の異なる和の特等席へ

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「越前あわら温泉 つるや」の客室は、異なる趣を持つ「平田数寄屋」の空間。築70年近くを経た今も古さを感じさせず、高い天井と大らかな開放感にあふれています。施工を手掛けた故・平田雅哉棟梁は、満足がいかなければ完成披露の当日であっても柱を鋸で切り刻んでやり直させたという逸話が残るほど、建築に一切の妥協を許さなかった伝説の職人。酒を飲んでごまかすような仕事を嫌い、徹底して技を磨き続けた平田氏の手仕事は、客室の随所に光ります。昔ながらの京間サイズ(現在の畳の1.2倍ほど)で敷かれた畳のゆったり感はもちろん、銘木を活かした意匠など、名工ならではの自由な発想と遊び心が散りばめられています。

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中でも露天風呂付き客室「観月」は、庭を楽しむために設計された贅沢な空間。外へ出られる月見台(縁側)からは青々とした緑と心地よい風を感じられ、冬にはうっすらと雪が積もる北陸ならではの情景も広がるのだそう。そのほか、ここには石を掘り抜いた浴槽に浸かる源泉100%掛け流しの内湯と露天風呂も完備。庭園や星空を眺めながら誰にも邪魔されず静かに湯と対峙する時間は格別です。

16:30〜温泉たまご作り:約70度の源泉で仕込む、できたてとろとろの温泉の恵み。

お部屋で一息ついた後は、中庭へ。ここでのお楽しみは、ゲストが楽しめる、つるや名物の一つでもある「温泉たまご作り」です。生卵を籠に入れ、足湯の横に設けられた約70度の源泉が満ちる湯槽の中へ。加水や加熱を一切しない100%源泉かけ流しだからこそ、お湯の熱だけで仕込む特別な体験です。

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出来上がりを待つ20〜30分の間は、足湯に浸かってのんびりと旅の会話を楽しむ贅沢なひととき。絶妙なとろとろ加減に上がったたまごは、温泉成分がじっくり染み込み、何もつけなくてもほんのり塩味が利いた格別の味わいです。

あつあつの温泉たまごを味わった後は、すぐ隣の「お客様サロン」へ。囲炉裏が置かれた静かな書房でズラリと並ぶ本を手に取ったり、セルフサービスのビールやコーヒーを味わったりしながら過ごす夕暮れ前の時間は、夕食に向けた心地よいクールダウンになります。

18:00〜夕食:真っ赤な絨毯の階段の先へ。福井の伝統工芸の器でいただく、旬の恵みあふれる夕食。

夕刻、お腹が空き始めた頃に足を進めるのは、真っ赤な絨毯が敷かれた館内の階段。クラシカルで温かみのあるアプローチを一歩ずつ上っていく時間は、これからどんな料理に出会えるのだろうと旅の高揚感を心地よく高めてくれます。

辿り着く夕食の場は、プライベートがしっかり守られた全室個室の食事処。畳敷きの客室からそのまま移動し、足を楽にしてゆったりと会話と料理に向き合える空間です。つるやの夕食は、予算や好みに合わせて選べる月替わりの創作懐石。おめでたい屋号にちなんだ「創作懐石膳 鶴」、「亀」、「福」のほか、春は若狭牛や鮑の懐石膳、冬の越前ガニなど、福井ならではの季節の味覚を主役にした旬のプランも並びます。

すべてのコースに通底するのは「量より質」への徹底したこだわり。この日いただいた「創作懐石膳 亀」も、上質な素材の魅力をまっすぐに伝える料理が揃います。高級魚として知られるのどぐろの塩焼きをはじめ、殻付きウニや甘海老、旬の鮮魚がダイナミックに盛られたお造りなど、一皿ひとさらの確かな存在感に目が奪われます。また、味覚だけでなく視覚や手触りでも楽しませてくれるのが、福井の豊かな風土を宿した器たち。日本六古窯の一つに数えられ、平安時代末期から引き継がれてきた「越前焼」の陶器は、温かみのある土と灰釉の素朴な味わいが豪華な料理を引き立てます。さらに「河和田塗」の深い光沢を纏った漆器など、職人の手仕事が光る逸品に美しく盛り付けられて運ばれてきます。

個室の凛とした静けさのなか、美しい料理と器に思いを馳せ、五感ですべてを噛み締める贅沢な夕刻のひとときです。

温泉:各宿が独自源泉を持つあわら温泉。3本の源泉が育む、しっとり濃厚な「純生の湯」。

食後は、日頃の疲れをじっくり解きほぐす大浴場や露天風呂へ。あわら温泉は、明治16年に灌漑用の井戸からお湯が湧き出たことから始まり、街全体で共同管理をするのではなく各旅館がそれぞれ独自の温泉井戸を持つという全国的にも珍しい温泉街です。

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中でもつるやは敷地内に3本もの自家源泉を所有しており、加水や加熱、循環管理を一切行わない「100%天然温泉かけ流し」で浴槽が満たされています。源泉時で約80℃という高温泉の熱エネルギーを省エネ熱交換器システムで冷まし、各浴槽の下部分からは約55℃の新鮮なお湯が直接注がれています。湯船にゆらゆらと舞う浮遊物や沈殿物は「湯の花」と呼ばれ、濃密な温泉成分が凝固した本物の源泉である証しです。

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pH7.5の弱アルカリ性・ナトリウム・カルシウム-塩化物泉のお湯は、少し熱めで驚くほどしっとりとした肌触り。あがる時はシャワーなどで洗い流さず、あえて「かけ湯をせずにそのまま上がる」のがつるや流の楽しみ方です。温泉の成分をじっくりと肌に浸透させることで湯冷めしにくく、あがった後も身体の芯からぽかぽかと温まり続けます。館内にはほかにも慢性胃炎などに良いとされる飲泉場が設けられているほか、地下から汲み上げたミネラル豊富な天然水の冷水機も用意されています。身体の外側からはもちろん、内側からも新鮮な湯と水の恵みを取り込むことができる、至福の湯あがり体験が待っています。

08:00〜朝食:源泉と出汁でじっくり炊き上げる名物「温泉がゆ」と、身体をやさしく起こす和の朝膳。

すっきりと目覚めた朝は、夕食と同じ個室食事処へ。つるやの朝食の主役は、館内に湧き出る新鮮な温泉水と出汁で丁寧に炊き上げられた「温泉がゆ」です。飲泉にも適したつるやの温泉は直接飲むとほんのり塩気を感じますが、出汁と合わせてお粥に仕上げることでとろりと角が取れ、まろやかで優しい味わいへと変化します。胃腸の調子を整えてくれる効能もあり、目覚めたばかりの身体にすーっと染み渡ります。

お膳に並ぶのは、福井県芦原産コシヒカリのご飯とともに楽しむ滋味あふれる料理たち。香ばしく焼き上げられたカレイの味醂干しをはじめ、シャキッとした食感が心地よい花らっきょう、味わい深い生姜の溜まり漬けなど、お粥や白飯が進むお供が豊富に揃います。さらに、優しい味わいの地元野菜や小鉢が彩りを添え、身体の奥からじんわりと温まる贅沢な朝のひとときを演出してくれます。朝のやわらかな光が差し込む静かな個室で、温泉の恵みと福井の風土を噛み締める時間は、心と身体を健やかに整えてくれる旅の締めくくりにふさわしい食体験です。

10:00〜チェックアウト:名物温泉たまごと職人の手仕事を持ち帰る。心身解きほぐされた滞在の終わり。

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美味しい朝食で心とお腹を満たした後は、売店でお買い物をしてチェックアウトの準備へ。つるやでのお土産選びには、少しユニークな楽しみ方があります。その代表格が、名物の「お土産用温泉たまご」。自家源泉でじっくり仕込むため準備に時間がかかり、前日夜までに注文しておくという特別でおもしろいスタイルをとっています。前日から楽しみに待って受け取る出来立ての温泉たまごは、旅の思い出話とともに持ち帰るのにぴったりな逸品です。さらに館内には、福井の職人技を感じさせる美しい漆器や、あわら温泉ならではの素朴なおやつなども並び、自分へのご褒美や贈り物を選ぶ豊かな時間が流れます。

お土産を手に持ち、名残を惜しみながらチェックアウト。数寄屋造りの建築美に包まれ、敷地内から湧き出る純生の湯に癒やされ、福井の風土を映したお料理に心を満たされた滞在はあっという間です。

波が刻んだ岩肌と日本海の大パノラマ。福井随一の絶景「東尋坊」へ。

チェックアウトした後にぜひ足を伸ばしたいのが、宿から車で約20分の距離にある国指定の天然記念物「東尋坊」です。日本海の荒波が長い年月をかけて削り出した巨大な柱状節理の断崖絶壁は、世界的にも地質学的に珍しい貴重な絶景。先端近くまで歩いて向かうと、眼下に広がる力強い波打ち際と渡る潮風が、自然のダイナミズムを全身で実感させてくれます。周辺には獲れたての海の幸を味わえる食事処や、食べ歩きが楽しめる香ばしいお土産店が並ぶ商店街も。あわら温泉での静かで上質な滞在の余韻に浸りつつ、福井の雄大な自然を満喫して旅をしめくくるのにぴったりのスポットです。

「越前あわら温泉 つるや」で味わった上質な温泉の余韻を抱いたまま巡る福井の自然は、旅の記憶をよりいっそう鮮やかに彩ってくれます。心身をゆるやかに解きほぐす特別な時間を求めて、ぜひあわら温泉へ足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。

越前あわら温泉 つるや

構成・文/土屋志織 撮影/大内香織

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